工場や建設現場での作業中に落下物が直撃する、足場から転落してしまう、重機に接触するなど、労災事故によって鎖骨を骨折してしまうケースは少なくありません。不幸にも労災事故で鎖骨を骨折してしまった場合、適切な治療を受け、十分な療養期間を確保することが必要です。
鎖骨骨折の場合、骨がずれて変形が残ったり、肩の動きが制限されたり、骨折部分に痛みが残ったりするなど、さまざまな後遺障害が残る可能性があります。そのため、労災保険からどのような補償が受けられるのか、後遺障害の等級はどのように認定されるのか、といった点を正確に理解しておくことが大切です。
そこで今回は、鎖骨の骨折事故に遭われた方やそのご家族の方に向けて、適正な補償を受けるために必要な知識を解説していきます。
労災事故による鎖骨骨折
鎖骨骨折は労働災害の現場で比較的よく見られる怪我の一つです。鎖骨は胸骨と肩甲骨をつなぐ重要な骨であり、上半身の動作に大きく関わっています。
労災事故で鎖骨骨折が発生する典型的な状況
鎖骨骨折を引き起こす労災事故には、主に以下のようなケースがあります。
高所作業中の転落事故
作業用の足場や脚立から転落し、肩から地面に落ちることで鎖骨を骨折するケースです。建設現場や工場での作業中によく見られます。
落下物との衝突
上部から工具や資材が落下してきて肩に直撃し、鎖骨を骨折するケースです。特に重量物との衝突は深刻な骨折につながりやすいため注意が必要です。
重機や車両との接触
フォークリフトなどの重機や車両と接触して、鎖骨を強打してしまうケースです。工場内や倉庫での作業中に発生することがあります。
鎖骨骨折の種類と治療方法
鎖骨骨折は、骨折する部位によって大きく3つに分類されます。
1.鎖骨遠位端骨折(肩に近い部分の骨折)
2.鎖骨骨幹部骨折(真ん中部分の骨折)
3.鎖骨近位端骨折(胸に近い部分の骨折)
治療方法は骨折の状態によって異なりますが、多くの場合は手術を行わない保存療法が選択されます。具体的には、バンドやサポーターで固定して、骨の自然な癒合を待つ方法です。
ただし、以下のような場合には手術が必要となることがあります。
・骨折による鎖骨の短縮が著しい場合
・皮膚に損傷が及んでいる場合
・保存療法で骨がうまくつかない場合
・骨折部位のずれが大きい場合
鎖骨骨折による後遺障害の認定
鎖骨骨折の場合、完治後も後遺障害が残ることがあります。後遺障害は、その症状や程度によって等級が認定され、補償額に大きく影響します。
鎖骨骨折による後遺障害は、主に以下の3つのタイプに分類されます。
可動域制限
肩関節の動きが制限される状態を指します。制限の程度によって、以下のように等級が認定されます。
・第10級10号:健側の関節可動域の2分の1以下の制限がある場合
・第12級6号:健側の関節可動域の4分の3以下の制限がある場合
変形障害
骨折が治癒した後も、鎖骨に目で見てわかる程度の変形が残る状態を指します。変形が著しい場合、第12級5号として認定されます。ただし、レントゲン写真でしか確認できない程度の軽微な変形は、後遺障害としては認められません。
神経症状
骨折部位に継続的な痛みやしびれが残る状態を指します。症状の程度や他覚的所見の有無によって、第12級13号(頑固な神経症状)または第14級9号(神経症状)として認定されます。痛みの継続性や治療経過の記録が重要となります。
労災事故による鎖骨骨折で受けられる補償
労災事故で鎖骨骨折の怪我を負った場合、適切な手続きを行うことで様々な補償を受けることができます。私の経験では、被災者の方やそのご家族が受けられる補償の全容を把握していないケースが少なくありません。ここでは、どのような補償が受けられるのか、説明していきます。
労災保険からの給付内容
まず、労災保険から受けられる主な給付について説明します。これらは、労災認定を受けることで請求が可能となります。
療養補償給付
療養補償給付は、治療にかかる費用を補償するものです。鎖骨の骨折事故の場合、長期のリハビリテーションが必要となることも多く、この給付は重要です。
休業補償給付
休業補償給付は、働けない期間の収入を補償するものです。給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます。鎖骨の骨折事故の場合、手術後の回復期間や機能回復のためのリハビリ期間中の収入を補償する重要な給付となります。
障害補償給付
後遺障害が残った場合には、障害補償給付を受けることができます。先ほど説明した障害等級に応じて、年金または一時金が支給されます。第7級以上の場合は年金として、第8級以下の場合は一時金として支給されるのが特徴です。
使用者に対する損害賠償請求
労災保険による補償に加えて、事故の原因に会社側の責任が認められる場合には、使用者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
例えば、安全対策が不十分な状態で作業をさせていた場合や、必要な研修・指導を怠っていた場合などは、会社側の安全配慮義務違反として損害賠償請求の対象となりえます。この場合、労災保険では補償されない慰謝料や、休業損害の不足分などを請求することができます。
不安を抱え込まずに専門家に相談を
鎖骨の骨折事故は、被災者の方の人生に大きな影響を与えかねない深刻な事故です。適切な補償を受け、円滑な職場復帰を実現するためにも、一人で悩みを抱え込まず、専門家に相談することをお勧めします。
少しでも不安や疑問がありましたら、まずはお気軽にご相談ください。