
重量物を扱う倉庫や工場などの現場では、フォークリフトは必要不可欠な存在です。しかし、その便利さの一方で、一歩間違えれば重大な事故につながる危険性も秘めています。実際に、私が担当した案件の中にも、フォークリフトに衝突され重傷を負ったケースや、後遺障害が残ってしまったケースなど、被害者の人生を大きく変えてしまうような深刻な事故がありました。
フォークリフト事故の被害に遭われた方は、
「労災保険の手続きはどうすればいいのか」
「治療費や休業中の生活費はどうなるのか」
「会社に損害賠償を請求できるのか」
といった不安を抱えています。
この記事では、フォークリフト事故の特徴から法的な対応まで、被害者の方々が知っておくべき重要な情報をわかりやすく解説していきます。
フォークリフト事故で悩まれている方の不安を少しでも解消し、適切な補償を受けるためのヒントにしていただければ幸いです。
フォークリフト事故の特徴と危険性
フォークリフトは、荷物を効率的に運搬できる便利な機械ですが、その特徴ゆえに重大な事故を引き起こすリスクがあります。まずは、フォークリフトの特徴とそれに伴う危険性について詳しく見ていきましょう。
フォークリフトとは
フォークリフトは、前面に荷物を持ち上げるための爪(フォーク)を備えた荷役自動車です。油圧を利用して荷物を昇降・傾斜させることができ、重量物の運搬に欠かせない機械として、倉庫や工場などで広く使用されています。
特有の危険性
フォークリフトによる事故が重大化しやすい理由は、主に以下の3つの特徴に起因します。
一つ目は、「視界の制限」です。フォークリフトは荷物を前方に積んで走行するため、運転者の視界が大きく制限されます。時にはバックでの走行を余儀なくされることもあります。そのため、人との接触事故が起きやすいのです。
二つ目は、「独特の運転特性」です。フォークリフトは普通自動車と異なり、後輪でハンドル操作を行います。そのため、旋回時に車両後部が大きく振れ、周囲の人や設備に接触する危険性があります。特に経験の浅い運転者にとっては、この特性に慣れるまでに時間がかかります。
三つ目は、「荷崩れのリスク」です。フォークリフトは重量物を高く持ち上げて運搬するため、荷物の積み方が不適切であったり、急な操作を行ったりすると、荷崩れや、車両の横転につながる可能性があります。一度荷崩れが起これば、周囲の作業員を巻き込む大事故になりかねません。
実際の労災事故事例
私が担当した案件の中で印象的だったのは、ある工場での事故です。ベテランのフォークリフト運転手が、大きな荷物を前方に積んで後進で移動していた際、死角にいた作業員に気付かず接触してしまいました。作業員は足首を踏まえて骨折し、3か月の入院を余儀なくされただけでなく、後遺障害が残る結果となりました。
このように、たとえベテラン運転手であっても、フォークリフトの特性と現場の状況が重なることで、重大な事故につながる可能性があるのです。
フォークリフト事故と法令上の規制
フォークリフト事故の危険性が高いことを踏まえ、法令では様々な安全対策を義務付けています。ここでは、フォークリフトの法令上の位置づけと、事業者が講じるべき安全対策について解説します。
法令上の位置づけ
フォークリフトは、法令上「車両系荷役運搬機械」の一つとして定義されています(労働安全衛生規則151条の2)。この定義に基づき、事業者には様々な安全対策が義務付けられているのです。
事業者が講じるべき具体的な安全対策
法令では、事業者に対して以下のような安全対策を求めています。
まず、作業を開始する前に、作業計画を策定しなければなりません。この計画には、作業場所の広さや地形、フォークリフトの種類や能力、荷物の種類や形状などを考慮した具体的な作業方法を定める必要があります。さらに、この計画は作業に関わる全員に周知することが求められています。
次に、作業指揮者の選任です。フォークリフト作業を行う際は、必ず作業指揮者を定め、その者に作業計画に基づいて作業の指揮を行わせなければなりません。作業指揮者は現場での安全確保の要となる重要な役割を担います。
また、フォークリフトと作業員との接触を防止するため、立入禁止区域を設定することも必要です。作業場所の状況に応じて、適切な進入防止措置を講じなければなりません。
さらに重要なのが、運転資格です。フォークリフトの運転には、法令で定められた資格が必要です。事業者は、無資格者にフォークリフトを運転させてはいけません。
安全対策を怠った場合の法的責任
これらの安全対策を怠った状態で事故が発生した場合、事業者は重大な法的責任を負うことになります。
例えば、作業計画を策定せずに作業を行わせた結果、事故が発生した場合や、無資格者にフォークリフトを運転させて事故が起きた場合、事業者の安全配慮義務違反が認められ、損害賠償責任を負う可能性が高くなります。
また、労働基準監督署の監督指導により、是正勧告や使用停止命令などの行政処分を受けることもあります。悪質な場合は、刑事責任を問われることもあるのです。
フォークリフト事故が起きた場合の労災保険からの補償
フォークリフト事故が発生した場合、まず考えられるのが労災保険からの補償です。ここでは、実際に労災保険を受けるために必要な要件や手続き、そして具体的な給付内容について説明します。
労災保険の対象となる要件
フォークリフト事故による怪我が労災保険の対象となるためには、「業務上の事由」によって発生したと認められる必要があります。具体的には、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要素が必要です。
業務遂行性とは、労働者が仕事をしている最中の事故かどうかを判断する要素です。例えば、会社の指示のもとフォークリフト作業に従事している際の事故であれば、この要件を満たすことになります。
業務起因性とは、業務と事故の間に因果関係があるかを判断する要素です。通常の作業中のフォークリフト事故であれば、この要件も満たすことがほとんどです。
ただし、休憩時間中に遊び半分でフォークリフトを運転して起きた事故や、会社の許可なく無断で運転して起きた事故などは、これらの要件を満たさない可能性が高いので注意が必要です。
具体的な給付内容
労災保険から受けられる主な給付には以下のようなものがあります。
まず、治療費です。労災指定医療機関であれば、原則として治療費が全額給付されます。
次に、休業補償です。仕事を休まざるを得なくなった場合、休業4日目から、給料の8割相当額(うち2割は労災保険の特別支給金)が支給されます。
さらに、後遺障害が残った場合には、その程度に応じて障害補償給付が支給されます。
労災申請の手続き
労災保険の申請は、会社の所在地を管轄する労働基準監督署で行います。
申請書類の提出後、労働基準監督署で調査が行われ、業務上の災害として認定されれば、各種給付が開始されます。
なお、事業主が労災申請に協力的でない場合でも、労働者自身で直接申請することは可能です。その場合は、事故の状況や目撃者の証言など、事故と業務の関連性を証明する資料を可能な限り収集しておくことをお勧めします。
労災保険だけでは足りない理由と損害賠償請求
フォークリフト事故の被害者の方々から、「労災保険の補償だけで十分なのでしょうか」「会社に対して損害賠償請求はできないのでしょうか」というような相談をよくいただきます。ここでは、これらの疑問に対する答えを、解説していきます。
労災保険の限界
労災保険は、確かに治療費や休業補償などの基本的な補償を提供してくれる制度です。しかし、以下のような限界があります。
まず、休業補償は給与の8割相当額(うち2割は労災保険の特別支給金)に限られます。長期の療養が必要な場合、この収入減は家計に大きな影響を与えかねません。
また、。事故によって受けた肉体的・精神的な苦痛は、決して小さいものではないにもかかわらず、労災保険からは精神的苦痛に対する慰謝料は一切支払われません
さらに、後遺障害が残った場合の将来の収入減少についても、労災保険だけでは十分な補償が得られない場合が多いのです。
会社への損害賠償請求が可能なケース
では、どのような場合に会社への損害賠償請求が可能になるのでしょうか。
一つは、他の従業員の過失による事故の場合です。例えば、フォークリフト運転者の不注意で接触事故が起きた場合、会社は使用者責任として損害賠償責任を負うことになります。
もう一つは、会社の安全配慮義務違反が認められる場合です。例えば、以下のような場合が該当します。
・無資格者にフォークリフトを運転させていた
・法令で定められた作業計画を策定していなかった
・必要な安全教育を実施していなかった
・危険性を認識していたにもかかわらず、対策を講じていなかった
具体的な損害賠償の内容
損害賠償として請求できる具体的な項目には、以下のようなものがあります。
・休業損害の4割分(労災保険で補償されない部分・特別支給金は損益相殺の対象とならない)
・通院・入院慰謝料
・後遺障害慰謝料
・後遺障害逸失利益
・通院交通費等
おわりに
ここまで、フォークリフト事故の特徴から法的対応まで、詳しく解説してきました。最後に、重要なポイントを整理しておきましょう。
フォークリフトは、作業現場に不可欠な機械である一方で、その特性から重大な事故を引き起こす危険性を持っています。そのため、法令では様々な安全対策が義務付けられています。
事故が起きてしまった場合、まずは労災保険による補償を受けることができますが、労災保険だけでは十分な補償が得られない場合も多く、会社の安全配慮義務違反や他の従業員の過失が認められる場合には、会社への損害賠償請求を検討する必要があります。 当事務所では、フォークリフト事故の被害に遭われた方々への無料相談を随時受け付けています。
一人で悩まず、まずは専門家に相談することをお勧めします。
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