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仕事中に怪我を負ってしまう「労働災害」は、ある日突然、平穏な日常を奪い去ります。
体が思うように動かなくなって不安を感じる中で、会社の対応に誠実さを感じられなかったり、思いやりのない言葉をかけられたりして、職場復帰への意欲を失ってしまう方は少なくありません。
「会社に対して、もっと正当な補償を求めたい」
「でも、会社と直接やり取りをするのは精神的につらい」
そんな悩みを抱え、どこに相談すればよいか分からず一人で耐えている方がたくさんいらっしゃいます。
私は福井県福井市で弁護士として15年以上にわたり、数多くの労災事件に携わってまいりました。その経験から申し上げると、労災事故の被害者が適正な補償を受けるためには、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが重要だと考えています。
今回の記事では、労災被害のご本人に代わって弁護士が会社と示談交渉する意味について詳しく解説します。労災事故でお困りの方、会社との交渉に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
労災保険だけでは足りない補償
まず知っておいていただきたいのは、国が提供する「労災保険」の給付だけでは、被災した方の損害がすべて埋まるわけではないという事実です。
労災事故が起きた原因が、機械の不備や安全教育の不足といった「会社の責任(安全配慮義務違反)」にある場合、労働者は労災保険とは別に、会社に対して直接「損害賠償」を請求することができます。
なぜ、労災保険だけでは不十分なのでしょうか。そこには大きな理由が3つあります。
1. 労災保険には「慰謝料」という項目がない
最も大きな違いは、精神的な苦痛に対する「慰謝料」です。労災保険からは、治療費や休業の補償は出ますが、慰謝料は1円も支給されません。
会社への損害賠償請求では、怪我をしたことへの「入通院慰謝料」、後遺障害が残ったことへの「後遺障害慰謝料」、そして亡くなられた場合の「死亡慰謝料」という3つの慰謝料を求めることができます。これらは、傷ついた心と人生を支えるために、極めて大切な項目です。
2. 将来得られるはずだった収入(逸失利益)の不足
大きな怪我で後遺障害が残ったり、亡くなったりした場合、将来にわたって得られるはずだった収入が失われます。これを「逸失利益」と呼びますが、労災保険から支払われるのはそのごく一部に過ぎません。本来受け取るべき正当な金額を確保するには、会社への請求が必要不可欠です。
3. 休業中の給付は「8割」にとどまる
怪我で働けない期間中、労災保険から「休業補償給付」が支払われます。しかし、これは事故前の給料の100%ではなく、実質的には約80%分です。残りの20%分についても、会社に対して「休業損害」として請求することが可能です。
このように、労災保険はあくまで「最低限の生活を支えるセーフティネット」としての役割であり、本当の意味で適正な補償を受けるためには、会社との交渉が必要になるのです。
なぜ、被災したご本人が直接交渉するのは難しいのか
適正な補償を受けるために会社への請求が必要だとは分かっていても、実際にご自身で動くとなると、そこには非常に高いハードルがあります。
まず、精神的な負担です。つい昨日まで勤めていた会社、あるいは怪我を治して戻るかもしれない場所を相手に、「お金の請求」をするのはとても勇気がいることです。会社の担当者から冷たい態度を取られたり、「自分勝手だ」と思われるのではないかと不安になったりして、二の足を務めてしまう方は少なくありません。
また、法律的な知識の面でも困難が伴います。
「自分の主張は法律的に正しいのだろうか?」
「会社が出してきた示談金の額は相場と合っているのか?」
「請求し忘れている項目はないだろうか?」
「証拠はこれで十分なのだろうか?」
こうした疑問や不安を一人で抱えたまま交渉を進めるのは、専門家でない限り、限界があるのが現実です。専門的な知識がないまま話し合いに臨むと、会社側の言い分に圧倒され、不当に低い金額で示談させられてしまうリスクもあります。
不安な点を挙げればキリがありませんが、被災して心身ともに疲弊している状況で、これらの重圧をすべて背負い込む必要はないのです。
弁護士による「示談交渉」が解決への近道になる理由
そこで検討していただきたいのが、経験豊富な弁護士に依頼して、会社との交渉をすべて任せるという選択肢です。
弁護士が介入する場合、いきなり裁判(訴訟)を起こすわけではありません。まずは弁護士名で書面(通知書)を会社に送り、話し合いによる解決、つまり「示談交渉」を提案します。
弁護士からの通知が届くと、会社側も「これは真剣に対応しなければならない」と判断し、ほぼ間違いなく自社の顧問弁護士などに相談します。その結果、これまでの感情的なやり取りではなく、弁護士同士による冷静で法的な根拠に基づいた話し合いが始まります。
実は、当事務所で取り扱う労災事案でも、多くのケースが裁判になる前の「示談」で最終解決しています。
もちろん、事故の内容や会社の姿勢によっては話し合いが難しい場合もあります。しかし、専門家が間に入ることで、多くの場合において裁判まで進まずに、お互いが納得できる落としどころを見つけることができるのです。
また、最近の企業の多くは、万が一の労災事故に備えて、民間の「労災上乗せ保険」や「使用者賠償責任保険」などに加入しています。弁護士が法的根拠を持って請求を行うと、会社側はこれらの保険を利用して賠償金を支払うことができます。
つまり、会社側としても「自社の持ち出し(現金の負担)」がなく、保険によって適正な賠償金を支払えるケースが多いのです。
会社側に大きな経済的負担をかけずに解決できる仕組みが整っているため、弁護士が介入することで、会社側もスムーズに話し合いに応じ、スピーディーな解決につながりやすくなります。
「会社と顔を合わせたくない」「法的なことは分からない」という方にとって、弁護士が盾となり、代わって交渉を行うことには大きな意義があります。
示談で解決するメリットと、知っておくべきデメリット
裁判をせずに「示談」で解決することには、大きなメリットがある一方で、知っておくべき注意点もあります。
メリット:早期の解決・裁判によるリスクの回避
裁判になると解決までに1年から2年を要することも珍しくありませんが、示談であれば数ヶ月、早いケースでは1ヶ月程度で解決に至り、速やかに入金されることもあります。
また、裁判は必ずしも有利な判断が下されるとは限りません。示談交渉の段階では争っていなかった点について、裁判で徹底的に反論されるリスクもあります。話し合いでの解決は、こうした不確実なリスクを避けることにつながります。
デメリット:裁判より金額が低くなる可能性
示談はお互いが譲歩して合意を目指す手続きです。早期解決や確実な入金と引き換えに、裁判で100%勝訴した場合の金額と比べると、多少の減額を受け入れざるを得ない場面もあります。
私たちは、こうしたメリットとデメリットを隠さずにお伝えした上で、依頼者にとって何がよい解決になるのかを共に考え、最善の選択をサポートいたします。
最後に:一人で悩まず、地元の弁護士にご相談ください

労災事故による損害賠償、とりわけ「示談交渉」による解決には、精神的にも時間的にも大きなメリットがあります。
労災保険だけではカバーされない適正な補償をしっかりと確保することは、事故によって失われた生活の質を取り戻すために欠かせないステップです。弁護士にご依頼いただくことで、あなたは会社との直接のやり取りから解放され、前向きな再出発に向けた準備に専念することができます。
私は福井で活動する弁護士として、地元の皆様が適正な補償を受け、安心を取り戻せるよう全力でサポートしています。
「こんなことを相談してもいいのだろうか」という段階でも構いません。まずは一度、あなたの今の状況をお聞かせください。






