労災事故~熱中症【弁護士が解説】

気温上昇が問題になっている昨今では、熱中症による労災事故が多くなっています。
厚生労働省の「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、職場における死傷者数の推移は以下のようになっています。
・2019年…829名
・2020年…959名
・2021年…561名
・2022年…827名
・2023年…1,106名
・2024年…1,257名
2024年は前年より151名増え、統計上もっとも多い年となりました。亡くなった方は31名で、そのうち建設業が10名、製造業が5名です。

2024年の死傷者を業種別に見てみると、以下のようになります。
・建設業…228名
・製造業…235名
・運送業…186名
・警備業…142名
・商 業…116名
・清掃・畜業…76名
・農 業… 32名
・林 業… 10名
・その他…232名
計…1,257名

上記のように、建設業と製造業の熱中症死傷者はとても多い数です。
では、このような熱中症において労災は適用されるのでしょうか。この記事では、熱中症と労災の関係性について解説します。
熱中症の発生要因
熱中症は、特に暑い季節に多く発生します。
職場で熱中症を発症した場合、労災保険の対象となる可能性がありますが、すべての事例が認められるわけではありません。特に「高温環境下での作業であること」「業務に伴う行動であること」が認定の鍵となります。
熱中症は高温環境下での労働により体温調節機能が追いつかず、体温が上昇することで起こります。主に夏季の屋外作業や高温の工場内での作業で見られますが、冬季でも過剰な暖房環境で発生する可能性があります。
発生しやすい業種は建設業、製造業、運送業、警備業などで、特に建設業と製造業は熱中症による死傷者数が全体の約4割を占めています。これらの業種で多発する背景には、高温多湿の場所での作業の多さや、長時間の身体活動、作業場所を離れにくい状況があります。
熱中症が発生しやすい環境としては、日差しの強い屋外や高温多湿の場所が挙げられますが、屋内でも注意が必要です。特に風通しの悪い場所や高温になる場所、発熱体の近くでの作業には十分な注意が必要です。これらの点を理解し、適切な予防措置を講じることが、職場における熱中症対策として重要です。
2025年6月から、会社の熱中症対策は義務になりました
2025年6月1日、労働安全衛生規則が改正されました(第612条の2の新設)。それまで熱中症対策は努力目標の色合いが強かったのですが、一定の条件にあてはまる作業については、会社が対策を取ることが法律上の義務になっています。
対象となるのは、次のどちらにもあてはまる作業です。
①WBGT(暑さ指数)28度以上、または気温31度以上の作業場で行われること
②継続して1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれること
福井県内の夏場の工場や建設現場を思い浮かべると、多くの作業がこの条件にあてはまります。屋内であっても、風通しの悪い場所や熱を出す機械の近くであれば対象になり得ます。
会社に義務づけられたのは、次の3点です。
①体調の異変を報告させる体制を作ること(本人が不調を訴えたとき、または周囲が異変に気づいたときに、誰にどう伝えるかをあらかじめ決めておく)
②症状の悪化を防ぐ手順を決めておくこと(作業から離れさせる、体を冷やす、医師に診せる、緊急連絡網や搬送先を用意する)
③①②の内容を、実際に作業する人たちに知らせておくこと
大がかりな設備投資を求めるものではありません。連絡先と手順を決めて紙にまとめ、現場の人に伝えておく。求められている水準はその程度です。裏を返せば、それすらしていなかった会社は、事故が起きたときに説明が難しくなります。
なお、この義務に違反した場合は、労働安全衛生法119条1号により、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となります。
熱中症患者の労災認定の可能性
結論から言えば、熱中症は労災認定される可能性があります。
熱中症が労災として認定されるためには、一般的認定要件と医学的診断要件を満たす必要があります。
一般的認定要件には、業務上の原因の存在、その原因と疾病との因果関係、そして業務以外の原因でないことが含まれます。
医学的診断要件では、作業条件や温湿度の把握、症状の視診と体温測定、他の疾患との鑑別診断が求められます。ただし、持病の悪化、休業中の発症、帰宅後の自宅での発症など、業務との直接的な関連が薄いケースでは労災認定されにくいです。
一方で、会社の行事などでの発症は、業務関連として認定される可能性があります。労災認定の判断は個々のケースによって異なりますが、事業者が業務中の熱中症予防に努めることが重要です。
また、発症した場合は速やかに医療機関での診断を受けることが認定の要件の一つとなっています。
通勤中に発生した熱中症が労災認定される場合、通勤経路や通勤時の気温などが判断材料となり、その行動が通勤に関連するものとして認められる必要があります。
義務化は、会社への損害賠償請求にも影響します
労災保険から給付を受けられても、それで補償が終わるわけではありません。労災保険は慰謝料を一切カバーせず、将来の収入が減る分(逸失利益)も十分には埋まらないためです。会社の安全管理に問題があった場合には、労災保険とは別に、会社へ損害賠償を請求できることがあります。
ここで2025年の改正が効いてきます。
これまで熱中症の事案では、「会社としてどこまで対策していれば十分だったのか」という点が争いになりがちでした。基準がはっきりしないため、会社側から「できることはやっていた」と反論されると、議論が平行線になることがあったのです。改正後は、対象となる作業について国が最低限の水準を条文で示しました。対象作業でありながら報告体制も手順も定めていなかったという事実は、会社に安全配慮義務違反があったことを裏づける事情として働き得ると考えられます。
実感として、事故の後で会社に「どんな対策をしていましたか」と尋ねると、書面が何も残っていないことが少なくありません。改正後は、体制整備や手順の作成が書面として残っているかどうかが、そのまま争点になります。
労災申請から給付までの流れ
熱中症の労災申請から給付までの流れは、まず熱中症が発生した後、速やかに医療機関を受診することから始まります。労災指定病院であれば自己負担なしで受診できますが、指定外の病院では一時的に立替払いが必要となります。ただし、後日全額が支給されます。
次に、給付請求書の提出が必要です。療養補償給付や休業補償給付など、状況に応じた適切な書類を用意します。労災指定医療機関で受診した場合は病院経由で提出できますが、指定外の場合は直接労働基準監督署へ提出します。この際、事業主による証明が必要となるため、通常は会社が代理で手続きを行います。
その後、労働基準監督署による審査と労災認定が行われ、認定されれば労災保険の給付が開始されます。給付には療養補償給付(治療費)、休業補償給付(休業中の賃金の約8割)、障害補償給付(後遺障害がある場合)、遺族補償給付(死亡した場合)などがあります。
注意すべき点として、業務中の傷病には健康保険は使用できません。また、労災認定されれば治療費が全額支給され、休業補償も受けられます。申請手続きは会社を通して行うのが一般的です。
熱中症による労災発生時の弁護士のサポート
熱中症による労災が発生した場合、弁護士の役割は以下のとおりです。
まず、後遺障害等級認定のサポートです。後遺障害の認定を受けるためには、診断書の記載は重要であり、記載内容によっては、認定される等級結果や補償にも大きく影響が出る可能性があります。
弁護士は、労災被害に遭われた方の後遺障害の申請のサポートをし、適切な障害診断書となっているか等のチェックを行うだけでなく、ご本人の労基署での面談時に上手く自身の症状を伝えていけるように、事前に打ち合わせ等を実施します。
次に、損害賠償請求のサポートがあります。労災が認められた場合、労働者は治療費や休業補償を受けられますが、会社側に過失があれば追加の賠償請求ができます。弁護士は会社の安全管理が適切だったかを確認し、必要な場合は労働者のために適正な賠償金を求めます。
弁護士は、後遺障害等級認定から賠償請求まで、幅広く労働者を支援し、健康と権利を守り、経済的な損失を最小限に抑えます。
早めの相談・依頼で安心を
労働災害の補償やその手続きは複雑で、一般の方が理解しづらいとお感じになる部分も少なくありません。
また、ご自身で会社と交渉することは大きなストレスとなりますし、どんな責任をどの程度追及できるどうかについても、判断は容易ではありません。
弁護士にご依頼いただくことで、会社側に責任があるのかどうかをより正確に判断し、会社側と対等に交渉することが可能です。
また、「弁護士に依頼するかについては未定」という方も、お早めにご相談いただくことで、弁護士はその方の具体的な事情を踏まえたアドバイスができますので、ご不安の解消や、今後の方針を立てるお役に立つことでしょう。
労災事故に遭われて、お悩みの方は一度、ご相談ください。
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(2026年8月 最終更新)






