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脚立やはしごは、建設現場や工場だけでなく、倉庫や店舗、オフィスなど様々な職場で日常的に使われています。一般家庭でも使用されることがある身近な用具であるため、危険性をあまり意識せずに使っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、脚立やはしごからの転落事故は決して軽視できるものではありません。過去の労災事例を見ると、転落によって骨折などの重傷を負うケースが多数発生しており、頭部を強打して重い後遺障害が残ってしまうこともあります。
当事務所では、これまで数多くの労災案件を取り扱ってきました。その中には、脚立やはしごからの転落事故も含まれており、被害に遭われた方の適正な補償の実現に向けて取り組んでまいりました。
業務中に脚立やはしごから転落してしまった場合、労災保険による補償を受けることができます。しかし、実は労災保険だけでは補償として十分ではないことをご存知でしょうか。労災保険からは慰謝料が支払われませんし、休業補償も事故前の収入と同額は受け取れません。
もし会社側に安全管理上の落ち度があったのであれば、会社に対して損害賠償を請求することで、労災保険では補いきれない部分の賠償を受けられる可能性があります。
この記事では、脚立やはしごからの転落事故について、どのような場合に会社の責任が認められるのか、また安全に作業するために知っておくべきポイントについて詳しく解説していきます。
脚立・はしごからの転落事故と労災保険の限界
業務中に脚立やはしごから転落して怪我をした場合、労災保険の適用を受けることができます。労災保険が適用されれば、治療費は労災保険扱いとなり自己負担なく治療を受けられます。また、怪我のために仕事を休まなければならない期間は休業補償給付が支給され、治療を続けても障害が残ってしまった場合には障害補償給付を受けることができます。
このように、労災保険は働く人にとって重要なセーフティネットとなっています。しかし、労災保険による補償には限界があることも知っておく必要があります。
まず、労災保険からは慰謝料が支払われません。入院や通院を余儀なくされたことに対する精神的苦痛への補償である入通院慰謝料も、後遺障害が残ってしまったことに対する後遺障害慰謝料も、労災保険の給付には含まれていないのです。
また、休業補償給付として支給されるのは、給付基礎日額の60%に特別支給金の20%を加えた80%程度にとどまります。つまり、事故前と同じ収入を得ることはできません。
さらに、後遺障害が残った場合、将来にわたって収入が減少する可能性がありますが、この点についても労災保険からの補償は十分とはいえません。
では、労災保険で補いきれない部分はどうすればよいのでしょうか。
もし脚立やはしごからの転落事故について、会社に安全配慮義務違反があったと認められるならば、会社に対して損害賠償請求をすることができます。これにより、労災保険では支給されない慰謝料や、休業補償の不足分、後遺障害による将来の収入減少に対する補償などを受けられる可能性があります。
次の章では、具体的にどのような場合に会社の責任が認められるのかを見ていきましょう。
会社の責任が問われるケース

脚立やはしごからの転落事故について、会社の責任が認められるのはどのような場合でしょうか。ここでは、会社の安全配慮義務違反が認められやすい典型的なケースは、大きく分けて以下の3つの視点で整理することができます。
1. 高さ2メートル超の箇所で転落防止措置がとられていなかった場合
労働安全衛生規則518条では、高さ2メートル以上の箇所で作業をさせる場合、墜落・転落の危険を防止する措置をとらなければならないと定めています。具体的には、足場を組んで作業床を設ける、防網(ネット)を張る、あるいは安全帯を使用させるといった措置が必須です。
したがって、高さ2メートルを超える高所作業において、これらの転落防止措置がとられていなかった場合、会社には明らかな法令違反があります。このような状況で事故が起きれば、会社の安全配慮義務違反が認められ、損害賠償責任が肯定されることになります。
2. 危険な作業を指示されていた場合
作業環境や方法に問題があるにもかかわらず、安全な対策を講じずに作業を指示していた場合も、会社の責任が問われます。これには、以下のような具体的なケースが含まれます。
まず、不適切な態様での作業です。荷物を持ったまま昇降させたり、脚立の天板(最上段)に乗って作業させたり、あるいは脚立に跨って作業させたりすることは、バランスを崩した際に対処ができず非常に危険です。本来禁止すべきこれらの行為を指示、あるいは黙認していた場合、会社の責任となる可能性が高いでしょう。
次に、環境に適さない器具の使用や設置不備です。凹凸のある不整形地で伸縮機能のない通常の脚立を使用させたり、はしごの転位防止措置(固定や滑り止め)を講じずに作業させたりした場合です。労働安全衛生規則527条でもはしごの転位防止措置は求められており、現場の状況に即した安全な器具や設置方法を用意しなかった場合、会社の責任となる可能性があります。
3. はしごや脚立自体に不具合があった場合
作業方法や環境に問題がなくても、使用していた器具そのものに欠陥があった場合です。
脚立やはしごが壊れていた、滑り止めが劣化して滑りやすくなっていた、あるいは必要な金具が取り付けられていなかったなど、器具の不具合が原因で転落事故が起きた場合、会社は「安全な器具を提供する義務」を怠っていたことになります。この場合も会社の安全配慮義務違反が認められ、損害賠償責任が肯定されるでしょう。
安全な作業のために確認すべきポイント
脚立やはしごからの転落事故を防ぐためには、作業前の安全確認が欠かせません。ここでは、はしごと脚立それぞれについて、安全に使用するためのポイントを解説します。また、より安全な代替手段の検討やヘルメット着用の重要性についても触れていきます。
はしごを安全に使用するためのポイント
はしごを使用する際には、まず上部と下部がしっかり固定されているかを確認することが重要です。固定できない場合は、別の作業者が下で支える必要があります。はしごをボルトで取り付けている場合には、ボルトの緩みや腐食がないかも点検しましょう。
はしごの上端は、上の床面から60センチメートル以上突出させることが望ましいとされています。
踏み桟に明らかな傷みがないか、足元に滑り止め(転位防止装置)が設置されているかも確認が必要です。作業者自身も、脱げにくく滑りにくい靴を履き、ヘルメットを着用してあご紐をしっかり締めることが大切です。
これらのポイントを一つでも満たしていない場合は、そのまま作業を進めるのではなく、上司に報告して対策を講じてもらうことが安全確保の上で重要となります。
脚立を安全に使用するためのポイント
脚立を使用する際には、まず安定した平らな場所に設置することが基本です。開き止めに確実にロックをかけ、ネジやピンの緩み、脱落、踏み桟の傷みがないかを確認しましょう。
作業中は、身体を天板や踏み桟に当てて安定させることが大切です。天板の上に乗ったり、天板をまたいで作業したりすることは、バランスを崩しやすく非常に危険ですので、絶対に避けてください。作業は上から2段目以下の踏み桟を使用し、頭より上での作業は行わないようにしましょう。
昇り降りの際には荷物を持たず、両手両足のうち常に3点を脚立に接触させる「三点支持」を維持することが重要です。はしごと同様に、脱げにくく滑りにくい靴を履き、ヘルメットを着用してあご紐を締めることも忘れないでください。
これらのポイントを一つでも満たしていない場合は、上司に報告するなどして、そのまま作業を行わないことが安全確保につながります。
ヘルメット着用の重要性
脚立やはしごからの転落事故では、頭部を負傷すると重大な結果につながりかねません。厚生労働省の統計によると、頭部を負傷して亡くなった墜落災害のうち、8割以上が墜落時にヘルメットを着用していなかったとされています。たとえ低い場所での作業であっても、ヘルメットの着用は頭部を守るために非常に重要です。
ただし、ヘルメットも正しく着用しなければ意味がありません。被る際には傾けずにまっすぐ被り、あご紐をしっかりと締めてください。破損したヘルメットは使用せず、耐用年数を過ぎたものは交換することも大切です。
会社からヘルメットを支給された場合でも、これらのポイントを確認し、安全性能が維持されているかを自分自身でチェックしましょう。問題があれば、交換を申し出ることをおすすめします。
より安全な代替手段の検討
はしごや脚立を使用する前に、まずはより安全な作業方法がないかを検討することも重要です。たとえば、ローリングタワー(移動式足場)、可搬式作業台、手すり付き脚立、高所作業車などが使用可能であれば、これらを活用することで転落のリスクを大幅に減らすことができます。
こうした代替手段の検討をせずにはしごや脚立での作業を行わせ、労働者が負傷した場合には、会社に安全配慮義務違反があったと認定される可能性が高くなります。会社としては、より安全な作業方法を積極的に検討し、提供する義務があるのです。
まとめ

脚立やはしごは身近な用具ですが、転落すれば骨折などの重傷を負ったり、頭部を強打して重い後遺障害が残ったりすることがあります。
業務中に脚立やはしごから転落した場合、労災保険による補償を受けることができます。しかし、労災保険からは慰謝料が支払われないなど、補償として十分とはいえない面があります。
もし会社に安全配慮義務違反があったのであれば、会社に対して損害賠償請求をすることで、労災保険では補いきれない部分の賠償を受けられる可能性があります。高さ2メートル超の箇所で転落防止措置がとられていなかった場合、危険な作業を指示されていた場合、はしごや脚立自体に不具合があった場合など、会社の責任が認められるケースは少なくありません。
当事務所では、これまで多数の労災案件を取り扱っており、脚立やはしごからの転落事故についても解決実績があります。脚立やはしごからの転落事故に遭われてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。事案に即したアドバイスをさせていただきます。
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