働く人にとって、膝の機能は日常生活だけでなく仕事を継続する上でも非常に重要な役割を果たしています。しかし、建設現場での事故や重量物の運搬作業中の怪我、あるいは長時間の立ち仕事による負担など、様々な労働災害によって膝が動かなくなってしまうケースが後を絶ちません。

このような膝の障害のために、歩行が困難になり通勤にも支障が出たり、立ち仕事が制限されることで職場復帰が難しくなったりするケースも少なく生活に深刻な影響を及ぼします。そのため、適切な補償を受け、今後の生活に備えることが重要になります。

「これから仕事は続けられるのだろうか」
「治療費はどうなるのだろう」
「後遺障害が残った場合、どのような補償が受けられるのか」

事故に遭われた方やご家族の多くは、このような不安を抱えながら日々を過ごされています。
適切な補償を受け、今後の生活に備えることがとても重要になりますが、私はこれまで、労災被害者が労災保険の仕組みや補償の範囲について十分な情報を得られないまま、必要な補償を受け損ねてしまうケースを数多く見てきました。
そこで今回は、膝が動かなくなる事故に遭われた方やそのご家族の方に向けて、適正な補償を受けるために必要な知識を解説していきます。

膝が動かなくなる労災事故の事例

建設現場での事例

建設現場で働いていたAさんは作業中に足場から転落し、強く膝を打ち付けてしまいました。この事故により、膝関節の靭帯や軟骨が損傷し、膝を曲げることが困難になってしまいました。
事故直後は痛みで立つことすらできず、救急搬送されて手術を受けることになりました。その後、リハビリテーションを継続しましたが、膝の可動域が著しく制限される後遺障害が残ってしまいました。

運送業での事例

運送業に従事していたBさんは、重い荷物を運搬している最中に、段差につまずいてバランスを崩し、膝を強く捻りました。結果として膝の骨にひびが入り、全治3ヶ月の重傷を負い、治療とリハビリを続けましたが、骨折部分の完全な回復には至らず、長時間の立ち仕事や重い物を持つ作業が制限されることになってしまいました。

反復作業での事例

工場で働いていたCさんは、毎日8時間以上の立ち仕事に従事していました。作業工程上、頻繁に膝を曲げ伸ばしする動作が必要で、徐々に膝に違和感を覚えるようになりました。
当初は休憩を取れば痛みが引いていましたが、次第に痛みが慢性化。最終的には、膝を曲げることも思うように動かすこともできない状態になってしまいました

これらの事例からわかるように、労働災害による膝の障害は、事故や作業内容によって様々な形で発生します。

膝の動かない労災における後遺障害認定

膝の負傷の治療を終えた後、「膝が思うように動かない」「痛みが残る」といった症状が続くことがあります。このような後遺障害が認められると、労災保険から補償を受けることができます。
膝が動かない場合における後遺障害は、大きく分けて「機能障害」、「神経障害」の2種類があります。

機能障害

治療後、以前のように膝が自由に動かせなくなってしまうケースがあります。これが、「機能障害」です。

・第8級7号：膝関節の機能を完全に失った場合（「関節の用を廃したもの」）
膝の関節が強直したもの、関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの
なお、膝の動揺関節の場合は、常に硬性補装具を必要とするもの

・第10級10号：膝関節の機能に著しい障害が残った場合
膝の関節の可動域が、健常な関節の可動域の１/２以下に制限されたもの
なお、膝の動揺関節の場合は、時々硬性補装具を必要とするもの

・第12級7号：膝関節の機能に障害が残った場合
膝の関節の可動域が、健常な関節の可動域の３/４以下に制限されたもの
なお、膝の動揺関節(※)の場合は、重激な労働などの際以外には硬性補装具を必要としないもの

※膝の動揺関節とは、事故による靭帯の断裂等により、膝の関節がぐらぐらして安定しなくなったり、異常な方向に曲がったりする状態です。

神経障害とは

膝の負傷の治療が終了しても膝に痛みやしびれ等が残る場合、神経障害として後遺障害と認定される可能性があります。
他覚的（画像所見等）に神経障害の存在が証明できる場合は12級12号、神経障害の存在が医学的に説明可能な場合は14級9号と認定されます。

労災事故による膝が動かない場合に受けられる補償

労災事故で膝が動かない場合、適切な手続きを行うことで様々な補償を受けることができます。私の経験では、被災者の方やそのご家族が受けられる補償の全容を把握していないケースが少なくありません。ここでは、どのような補償が受けられるのか、説明していきます。

労災保険からの給付内容

まず、労災保険から受けられる主な給付について説明します。これらは、労災認定を受けることで請求が可能となります。

療養補償給付

療養補償給付は、治療にかかる費用を補償するものです。膝を負傷する事故の場合、長期のリハビリテーションが必要となることも多く、この給付は重要です。

休業補償給付

休業補償給付は、働けない期間の収入を補償するものです。給付基礎日額の80%（休業補償給付60%＋休業特別支給金20%）が支給されます。膝を負傷する事故の場合、手術後の回復期間や機能回復のためのリハビリ期間中の収入を補償する重要な給付となります。

障害補償給付

後遺障害が残った場合には、障害補償給付を受けることができます。先ほど説明した障害等級に応じて、年金または一時金が支給されます。第7級以上の場合は年金として、第8級以下の場合は一時金として支給されるのが特徴です。

使用者に対する損害賠償請求

労災保険による補償に加えて、事故の原因に会社側の責任が認められる場合には、使用者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

例えば、安全対策が不十分な状態で作業をさせていた場合や、必要な研修・指導を怠っていた場合などは、会社側の安全配慮義務違反として損害賠償請求の対象となりえます。この場合、労災保険では補償されない慰謝料や、休業損害の不足分などを請求することができます。

不安を抱え込まずに専門家に相談を

膝が動かないという労災事故は、被災者の方の人生に大きな影響を与えかねない深刻な事故です。適切な補償を受け、円滑な職場復帰を実現するためにも、一人で悩みを抱え込まず、専門家に相談することをお勧めします。

少しでも不安や疑問がありましたら、まずはお気軽にご相談ください。