
高いところから落ちて背中や腰を強く打ち、背骨を骨折した。治療を終えたあとも、腰や背中の痛みが残っている。
そう診断された方が、こう受け止めることがあります。
「痛みが残っているだけだから、後遺障害としては軽いものだろう」
しかし、実際にはそうとは限りません。背骨の骨折では、痛みとは別に骨の変形そのものが後遺障害として評価されることがあるからです。この場合、認定される等級は11級になり得ます。
私は福井で15年以上、労働災害の事件を扱ってきました。建設現場や工場での墜落・転落事故を数多く見てきましたが、背骨の圧迫骨折を「痛みの問題」だと思い込み、本来の等級を取り逃してしまう方が少なくありません。
この記事では、11級とはどのような障害を指すのか、労災保険からいくら支払われるのか、そして圧迫骨折で見落とされがちな点について説明します。
労災の後遺障害11級とは、どのような状態か
障害等級表は、労働者災害補償保険法施行規則の別表第一に定められています。11級として挙げられているのは次の障害です。
・両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの(1号)
・両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの(2号)
・一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの(3号)
・十歯以上に対し歯科補てつを加えたもの(3号の2)
・両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの(3号の3)
・一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの(4号)
・せき柱に変形を残すもの(5号)
・一手の示指、中指又は環指を失つたもの(6号)
・一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの(8号)
・胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの(9号)
並べてみると、11級には両目・両耳といった左右そろっての障害と、体幹や内臓の障害が入ってくることが分かります。12級が体の一部分に限られた障害を扱うのに対して、11級は障害の及ぶ範囲が一段広がる等級だと考えると分かりやすいと思います。
労災でとくに多いのは「せき柱に変形を残すもの」
この10項目のうち、労災の現場でよく見るのが5号の「せき柱に変形を残すもの」です。せき柱とは背骨のことをいいます。
認定基準は、次のいずれかにあたる場合を11級としています。
・せき椎圧迫骨折等を残していて、それがエックス線写真等で確認できるもの
・せき椎固定術が行われたもの
・3個以上のせき椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの
手術を受けた場合も対象に入ります。ここは見落とされやすいところです。「骨のつぶれは手術で戻したから関係ない」と考えて申請しない方がいますが、固定術を受けているのであれば、それ自体が11級にあたり得ます。
労災で圧迫骨折が起きるのは、多くが墜落や転落の事故です。足場から落ちた、脚立から落ちた、トラックの荷台から落ちた、階段を踏み外した。背中や腰から落ちれば、背骨に大きな力がかかります。
ここで大事なのは、変形が残っているかどうかは、痛みの強さとは別に判断されるという点です。「痛みはあるが日常生活は送れている」という方でも、レントゲンやCTで骨の変形が確認されれば、後遺障害として評価の対象になります。逆に、痛みだけを訴えて変形の有無が検討されないまま手続が進むと、本来の等級より低い認定になってしまうおそれがあります。
なお、変形の等級は3段階に分かれています。11級のほかに、中程度の変形であれば8級、著しい変形であれば6級4号です。
そして11級と、その上の段階を分けるのは測定値です。
11級は、先ほど挙げたとおり圧迫骨折が画像で確認できれば足ります。数値は問われません。ところが中程度の変形や著しい変形になると、画像を測った数字が要件になります。厚生労働省の通達(平成16年6月4日付け基発第0604003号)が物差しを2つ定めています。
ひとつはつぶれた骨の高さです。背骨の椎体には前側と後側があり、圧迫骨折では前側がつぶれます。つぶれた椎体すべてについて、後側の高さの合計と、つぶれた後の前側の高さの合計を比べる。その差が後側の高さ1個分の50%以上であれば、中程度の変形の要件のひとつを満たします。2個以上の椎体がつぶれていて、差が1個分以上であれば著しい変形です。
もうひとつは背骨の曲がり具合で、コブ法という方法で測ります。エックス線写真で、カーブの上端と下端のうち最も傾いている椎体を探し、その延長線が交わる角度を測るものです。50度以上であれば中程度の変形にあたります。
知っておいていただきたいのは、この改正の前は変形の程度を外見で判断していたということです。平成16年に測定へ切り替わりました。裏を返せば、測っていなければ上の段階は検討されようがありません。 診断書や画像の所見に、椎体の高さやコブ法の角度が出ているかを確かめてみてください。
背骨の動きが制限されている場合は、変形とは別に運動障害としても評価されます。頸部および胸腰部が強直していれば6級4号、頸部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の2分の1以下に制限されていれば8級2号となる可能性があります。ご自身がどの段階にあたるかは、画像と可動域の測定値等で決まります。11級で確定と考える前に、この2つが評価されているかを確かめてください。
11級で労災保険から支払われる金額
11級は一時金の等級です。受け取れるものは3つあります。
障害補償一時金は、給付基礎日額の223日分です。給付基礎日額は、労働基準法の平均賃金に相当する金額で、事故前3か月間の賃金総額をその期間の暦日数で割って算出します。
障害特別支給金は、29万円です。等級だけで決まる定額です。
障害特別一時金は、算定基礎日額の223日分です。算定基礎日額は、事故前1年間の特別給与(ボーナスなど)の総額を365で割った金額です。ボーナスがない方には、この給付はありません。なお、この計算のもとになる特別給与の額には上限があります。給付基礎年額の20%にあたる額と150万円のうち、低いほうが上限です。
給付基礎日額が1万円の方であれば、障害補償一時金223万円に障害特別支給金29万円が加わって、およそ252万円になります。
圧迫骨折で押さえておきたい3つのこと
これまでの経験から、圧迫骨折の事案で結果を分けると感じている点を挙げます。
第一に、画像が残っているかどうかです。受傷直後のレントゲンやCT、MRIがあれば、事故によって骨が折れたことと、その後どのように変形したかを示せます。時間が経ってから撮った画像だけでは、もとから変形があったのではないかと争われることがあります。
第二に、変形について医師に評価してもらうことです。診断書に痛みのことしか書かれていないと、変形が検討されないまま認定が進みます。骨がどの程度つぶれているのか、書面として残してもらう必要があります。
第三に、痛みと変形は別に評価されるということです。「痛みが残っているだけ」と考えて申請を諦めてしまうと、変形の評価を受ける機会そのものを失います。
会社への損害賠償まで含めて考える
労災保険には慰謝料がありません。将来の収入が減る分も、十分には補われません。事故について会社に落ち度があった場合、これらは会社へ請求できます。
墜落・転落の事故では、会社の責任が問われる場面が多くあります。足場に手すりがなかった、安全帯を使わせていなかった、脚立の使い方を教えていなかった。そうした事情があれば、安全配慮義務違反となり得ます。
40歳・年収400万円の方を例に計算してみます。11級の労働能力喪失率は20%です。背骨の変形は時間が経てば戻るというものではありませんから、働ける年齢の終わりまで影響が続く前提で計算します。67歳まで27年として計算すると、逸失利益はおよそ1,466万円になります。これに後遺障害慰謝料420万円を加えると、賠償の総額はおよそ1,886万円です。
労災保険から受け取った障害補償一時金は、この賠償額から差し引かれます。同一の損害を重ねて回収することはできないという考え方によるものです。ただし障害特別支給金は差し引かれません。そうすると、会社から受け取るのは約1,663万円、労災保険の252万円と合わせて手元にはおよそ1,915万円が残る計算になります。
労災保険の手続だけで終わっていれば252万円でした。もっとも、これは一定の条件を置いた計算例です。年齢や年収、会社の落ち度の程度によって金額は変わります。
まとめ
労災の後遺障害11級について、要点を整理します。
11級は、両目や両耳といった左右そろっての障害、体幹や内臓の障害が対象になる等級です。労災でとくに多いのは、背骨の圧迫骨折による「せき柱に変形を残すもの」です。
労災保険からは、障害補償一時金として給付基礎日額の223日分と、障害特別支給金29万円が支払われます。給付基礎日額が1万円であれば、およそ252万円です。
そして圧迫骨折の場合、痛みの強さと骨の変形は別に評価されます。「痛みが残っているだけ」と考えて手続を進めてしまうと、変形が検討されないまま終わるおそれがあります。受傷直後の画像を確保し、変形について医師の評価を受けてください。
高いところからの転落は、福井の建設現場や工場でも珍しくない事故です。背中や腰を打った方は、一度ご相談ください。ご相談の予約は、電話でもメールでもLINEでも可能です。初回無料ですので、お気軽にお問い合わせください。






