
労災事故で片腕を手首から先で失った。片脚を足首から先で失った。あるいは、腕は残っているものの、まったく使えなくなった。
こうした状態が後遺障害5級にあたります。もうひとつ、ごく軽い仕事にしか就けなくなったという場合も、5級として評価されることがあります。
私は福井で15年以上、労働災害の事件を扱ってきました。5級の方から受ける相談で多いのは、「働けないわけではないが、以前の仕事にはもう戻れない」という状況にどう向き合うかという問題です。まったく働けない状態とも、多少の制限はあっても働ける状態とも違う。その中間にあるのが5級です。
この記事では、5級とはどのような状態か、4級とどこで分かれるのか、労災保険から何が支払われるのか、そして会社への損害賠償について説明します。
労災の後遺障害5級とは、どのような状態か
障害等級表は労働者災害補償保険法施行規則の別表第一が定めており、5級には次の障害が挙げられています。
・一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になつたもの(1号)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(1号の2)
・胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(1号の3)
・一上肢を手関節以上で失つたもの(2号)
・一下肢を足関節以上で失つたもの(3号)
・一上肢の用を全廃したもの(4号)
・一下肢の用を全廃したもの(5号)
・両足の足指の全部を失つたもの(6号)
→ 腕を切断する労災事故に遭われた方へ/足を切断する労災事故に遭われた方へ/労働災害における高次脳機能障害/労働災害における脊髄損傷
「特に軽易な労務以外の労務に服することができない」とは
1号の2と1号の3にある、この表現について説明します。
労災の障害等級表では、どれだけ働けるかによって等級が3段階に分かれています。条文を軽い順に並べると、次のようになります。
・9級……服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
・7級……軽易な労務以外の労務に服することができないもの
・5級……特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級は、仕事にある程度の制限がかかる状態です。7級は、軽い仕事にしか就けない状態。そして5級は、そのなかでもごく限られた仕事しかできない状態を指します。
「まったく働けない」であれば3級以上になりますので、5級は働くこと自体は可能だという前提に立っています。ただしその範囲が極めて狭い、ということです。
この判断は、検査の数値だけでは決まりません。実際にどのような作業ができて、何ができないのか。どれだけの時間なら続けられるのか。そうした日々の様子から評価されます。ご自身の状態を具体的に伝えられているかどうかが、そのまま結論に影響します。 通院のたびに医師へ伝え、記録としても残してもらってください。
切断の位置によって、4級と5級に分かれる
腕や脚を失った場合は、どこから先を失ったかで等級が変わります。
・4級4号「一上肢をひじ関節以上で失つたもの」
・5級2号「一上肢を手関節以上で失つたもの」
・4級5号「一下肢をひざ関節以上で失つたもの」
・5級3号「一下肢を足関節以上で失つたもの」
肘から先を失えば4級、手首から先であれば5級です。脚も同じで、膝から先なら4級、足首から先なら5級になります。切断の位置がどこかという一点で、等級がひとつ変わります。診断書にその位置が正確に書かれているかを確認してください。
もうひとつ、5級のなかには以下のような定めがあります。
・5級2号「一上肢を手関節以上で失つたもの」
・5級4号「一上肢の用を全廃したもの」
腕を手首から先で失った場合と、腕がまったく使えなくなった場合。この2つが同じ5級とされています。障害等級表では「失ったのか、動かないのか」で等級が分かれることが多いのですが、ここでは同じ評価になります。腕が残っていても機能を完全に失っているなら、失ったのと変わらないという考え方です。
ですから、「腕は付いているのだから軽いはずだ」ということにはなりません。どれだけ動くのかを測ってもらい、記録に残すことが大切です。
5級で労災保険から支払われるもの
5級は年金の等級です。
障害補償年金は、給付基礎日額の184日分が毎年支払われます。給付基礎日額とは、事故の日の前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った額をいいます。
障害特別支給金は225万円で、一度だけ支払われます。
障害特別年金は、算定基礎日額の184日分が毎年です。算定基礎日額は、事故前1年間のボーナス等を合計し365で割って求めます。なお、この計算のもとになる特別給与の額には上限があります。給付基礎年額の20%にあたる額と150万円のうち、低いほうが上限です。
給付基礎日額が1万円の方であれば、障害補償年金は年に184万円になります。
大きな支出が見込まれるときは、前払一時金という制度を使えます。将来受け取る年金の一部を先にまとめて受け取るもので、5級では給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、790日分から選択します。義手や義足の準備、自宅の改修などで使われる制度です。請求できるのは一度きりで、前払いを受けた額に達するまで年金の支給は止まります。
なお、介護補償給付は5級では対象になりません。この制度があるのは1級と2級だけです。
もうひとつ、厚生年金の障害厚生年金や国民年金の障害基礎年金を同じ事故について受給していると、労災の障害補償年金が調整されます。調整後の割合は、両方を受けているとき73%、障害厚生年金のみのとき83%、障害基礎年金のみのとき88%です(労災保険法施行令2条・4条・6条)。先ほどの年184万円という額も、これらの年金の有無で変わります。
労災の側が減るだけで、厚生年金・国民年金の額は動きません。障害特別支給金と障害特別年金には調整がかかりません。 合算した額が労災年金単独の額を下回らないよう、下限も置かれています。
会社への損害賠償まで含めて考える
労災保険には慰謝料という項目がなく、年金だけでは失った収入も埋まりません。会社の側に安全管理の問題があったのであれば、この2つを会社に請求できます。
後遺障害慰謝料は、裁判で用いられる基準で5級は1,400万円が目安とされています。
逸失利益は、通常実務では、労働能力喪失率79%を用いて計算します。40歳・年収400万円の方が67歳まで27年として計算すると、およそ5,791万円になります。慰謝料と合わせて、賠償の総額はおよそ7,191万円という計算です。
5級では、この79%という数字をどう扱うかがしばしば争点になります。会社側から「軽い仕事には就けているのだから、それほど収入は減っていない」と主張されることがあるためです。実際に転職を余儀なくされた、残業ができなくなった、昇進の見込みがなくなったといった事情があれば、それを具体的に示していく必要があります。
義手や義足が必要な場合には、その費用と生涯にわたる買い替えの費用も損害になります。労災保険にも義肢等の支給制度がありますが、それで足りない部分は会社への請求で求めます。
会社に請求する際は、受け取った障害補償年金の分が賠償額から差し引かれます。障害特別支給金と障害特別年金については、差し引かれません。
なお、以上の数字は一定の前提を置いて計算したものにすぎません。ご年齢、収入、担っていた業務の内容、会社の責任の重さによって、結論は変わってきます。
まとめ
労災の後遺障害5級について、要点を整理します。
5級は、片腕を手首から先で失った場合や、腕が残っていてもまったく使えなくなった場合、そしてごく軽い仕事にしか就けなくなった場合が対象になる等級です。
労災保険からは、障害補償年金として給付基礎日額の184日分が毎年、障害特別支給金225万円、そして障害特別年金が支払われます。前払一時金は最大790日分まで。介護補償給付の対象にはなりません。
そして労働能力喪失率は79%です。まったく働けないわけではないという評価ですが、実際にどれだけ収入が減ったかは、お仕事の内容によって大きく変わります。会社への請求では、以前の仕事に戻れないという事実を具体的に示すことが結果を左右します。
働けないわけではないが、これまでどおりには働けない。その状態をどう評価してもらうかが、5級では最も大きな問題になります。一度ご相談ください。ご相談の予約は、電話でもメールでもLINEでも可能です。初回無料ですので、お気軽にお問い合わせください。






