
労災事故で歯を何本か失った。小指が思うように曲がらない。片方の目が以前より見えにくい。脚の長さがわずかに変わった。
これらはいずれも、労災保険の障害等級表に13級として明記されている障害です。ところが、申告されないまま手続が終わってしまうことが少なくありません。
私は福井で15年以上、労働災害の事件を扱ってきました。その経験から申し上げると、13級は残っている症状が申告されないまま終わることが多い等級です。
理由は障害の程度ではありません。制度の側にあります。13級に並ぶ障害は外から分かりにくく、周囲にも伝わりにくい。働きながら生活は続けられてしまうので、「これは後遺障害には当たらないのだろう」とご本人が判断してしまう。そして誰もそれを訂正しません。
しかし13級には、他の等級にはない仕組みがあります。13級は、複数の障害が残ったときに等級が繰り上がる等級です。14級にはこれがありません。申告するかどうかで、結果は大きく変わります。
この記事では、13級とはどのような障害を指すのか、労災保険からいくら支払われるのか、そして複数の障害が残ったときに何が起きるのかを説明します。
労災の後遺障害13級とは、どのような状態か
障害等級表は、労働者災害補償保険法施行規則の別表第一が定めています。13級として挙げられているのは次の障害です。
・一眼の視力が〇・六以下になつたもの(1号)
・一眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの(2号)
・正面視以外で複視を残すもの(2号の2)
・両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの(3号)
・五歯以上に対し歯科補てつを加えたもの(3号の2)
・胸腹部臓器の機能に障害を残すもの(3号の3)
・一手の小指の用を廃したもの(4号)
・一手の母指の指骨の一部を失つたもの(5号)
・一下肢を一センチメートル以上短縮したもの(8号)
・一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの(9号)
・一足の第二の足指の用を廃したものなど(10号)
並んでいるのは、外から分かりにくい障害です。小指の機能、親指の骨の一部、1センチの脚長差、5本以上の歯科補てつ。いずれも、見た目や普段の動作からは他人に伝わりません。
伝わらないことと、影響がないことは別です。噛み合わせが変われば食事のとりかたは変わりますし、脚の長さの差は腰や膝への負担となって後から効いてきます。指の一本が利かないだけで、それまでの作業ができなくなる仕事もあります。ただ、そうした不便はご本人にしか分かりません。だから申告から漏れます。
とくに歯は注意が必要です。労災事故で顔を打って歯を失い、歯科で治療を受けたにもかかわらず、それが後遺障害の対象になると知らないまま終わっている方を何人も見てきました。5本以上に歯科補てつを加えていれば、13級に該当し得ます。
13級で労災保険から支払われる金額
13級は一時金の等級です。
障害補償一時金は、給付基礎日額の101日分です。給付基礎日額とは、事故の前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った金額をいいます。労働基準法の平均賃金と同じ考え方です。
障害特別支給金は、14万円です。等級だけで決まる定額です。
障害特別一時金は、算定基礎日額の101日分です。事故前1年間のボーナスなど(特別給与)の総額を365で割った金額から計算します。毎月の給与をもとにする給付基礎日額とは別物です。なお、この計算のもとになる特別給与の額には上限があります。給付基礎年額の20%にあたる額と150万円のうち、低いほうが上限です。
給付基礎日額が1万円の方であれば、障害補償一時金101万円に障害特別支給金14万円が加わって、およそ115万円になります。
13級は、等級が繰り上がる等級です
ここからが、13級を考えるうえで大事な部分です。
障害が2つ以上残った場合の扱いは、労働者災害補償保険法施行規則の14条3項が定めています。13級以上に該当する障害が2つ以上あるときは、重いほうの等級を1級繰り上げるという決まりです。
つまり、13級の障害が2つあれば、等級は12級になります。たとえば右手の小指が利かなくなり、あわせて歯を5本以上入れたという場合です。それぞれは13級ですが、2つ重なることで12級として扱われます。
13級のままであれば、障害補償一時金は101日分です。12級として扱われれば156日分になります。給付基礎日額が1万円の方なら、101万円と156万円の差です。
申告しなければ、この繰り上げは働きません。ご自身では2つ目だと思っていなかった症状が、実は等級表に載っていたというだけで、受け取る額は5割以上変わります。
14級との違いは、「重なったとき」に出ます
13級と14級は、等級表のうえでは隣り合っています。日数で見ても101日分と56日分ですから、2倍弱の違いです。
しかし、繰り上げの場面では扱いがまったく違います。先ほどの条文をもう一度見てください。繰り上げの対象は「13級以上に該当する障害が2つ以上あるとき」です。14級は含まれていません。
ですから、14級の障害がいくつ重なっても、等級は14級のままです。13級が2つあれば12級相当に扱われるのとは対照的です。
13級と14級の間には、日数の差では見えてこない断絶があるということです。ご自身の障害が13級なのか14級なのかは、それ自体で結果を左右します。
会社への損害賠償まで含めて考える
労災保険には慰謝料がありません。将来の収入が減る分も十分には補われません。会社の側に落ち度があったのであれば、これらは会社へ請求できます。
40歳・年収400万円の方を例に計算します。13級の労働能力喪失率は実務では通常9%です。歯や指、脚の長さといった障害は、時間が経てば戻るというものではありませんから、働ける年齢の終わりまで影響が続く前提で計算します。67歳まで27年として計算すると、逸失利益はおよそ660万円になります。これに後遺障害慰謝料180万円を加えると、賠償の総額はおよそ840万円です。
すでに労災保険から支払われた障害補償一時金は、この総額から控除されます。一方、障害特別支給金は控除されません。そうすると会社から受け取るのは約739万円、労災保険の115万円と合わせて手元にはおよそ854万円が残る計算になります。
労災保険の手続だけで終わっていれば115万円でした。等級が下位になるほど、この差の比重は大きくなります。なお、これは条件を置いた計算例です。年齢や年収、会社の落ち度によって結果は変わります。
まとめ
労災の後遺障害13級について、要点を整理します。
13級には、小指の機能、親指の骨の一部、1センチの脚長差、5本以上の歯科補てつといった、外からは分かりにくい障害が並んでいます。労災保険からは給付基礎日額の101日分と障害特別支給金14万円が支払われ、給付基礎日額が1万円であればおよそ115万円です。
13級は、繰り上げの対象に入る一番下の段です。2つ重なれば等級は12級になり、障害補償一時金は101日分から156日分になります。14級にはこの繰り上げが適用されませんから、13級かどうかは結果を大きく左右します。
そして、この仕組みは申告して初めて働きます。残っている症状が後遺障害に当たるかどうかを、ご自身で判断する必要はありません。事故の後に変わったこと、続いている不便は、どんなことでも医師に伝えて記録に残してください。
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