
労災事故で顔や首に傷あとが残った。事故のあと、以前のようには働けなくなった。そうした状態で後遺障害9級と認定された方に読んでいただきたい記事です。
認定の通知を見ても、なぜ9級なのかは読み取れません。障害等級表に書いてあるのは「外貌に相当程度の醜状を残すもの」「服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」といった文言だけだからです。自分がどこで線を引かれたのか、これでは分かりません。
ただ、判断が感覚で行われているわけではありません。厚生労働省が等級ごとに認定基準を定めていて、そこには具体的な数字が並んでいます。 顔の傷あとなら長さ5センチメートル、心臓なら6METs等といった具合です。
私は福井で15年以上、労働災害の事件を扱ってきました。9級の認定に納得がいかないとき、最初にすべきなのはご自身がどの基準に当てはめられたのかを確かめることです。9級にどのような障害が含まれるのか、認定基準は何を見ているのか、労災保険と会社への請求で何が受け取れるのかを、順に説明します。
労災の後遺障害9級とは、どのような状態か
障害等級表は労働者災害補償保険法施行規則の別表第一が定めており、9級には次の障害が挙げられています。項目数は17と、全等級のなかで最も多くなっています。
・両眼の視力が〇・六以下になつたもの(1号)
・一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの(2号)
・両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの(3号)
・両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの(4号)
・鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの(5号)
・そしやく及び言語の機能に障害を残すもの(6号)
・両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの(6号の2)
・一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの(6号の3)
・一耳の聴力を全く失つたもの(7号)
・神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(7号の2)
・胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(7号の3)
・一手の母指又は母指以外の二の手指を失つたもの(8号)
・一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの(9号)
・一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの(10号)
・一足の足指の全部の用を廃したもの(11号)
・外貌に相当程度の醜状を残すもの(11号の2)
・生殖器に著しい障害を残すもの(12号)
目、耳、鼻、口、指、足指、神経、内臓、生殖器と、体のあらゆる部分が並びます。9級はそれだけ幅の広い等級です。
顔の傷あとは、線状痕の長さ等で分かれます
外貌の醜状は、条文では3段階に分かれています。
・12級14号「外貌に醜状を残すもの」
・9級11号の2「外貌に相当程度の醜状を残すもの」
・7級12号「外貌に著しい醜状を残すもの」
厚生労働省の「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準」は、顔面部の外貌醜状について、これを次のように具体化しています。
・7級12号 … 鶏卵大面以上の瘢痕、または10円銅貨大以上の組織陥没
・9級11号の2 … 長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のもの
・12級14号 … 10円銅貨大以上の瘢痕、または長さ3センチメートル以上の線状痕
9級かどうかは、傷あとの長さと見え方で判断されているということです。眉毛や頭髪で隠れる部分は、障害補償の対象になりません。
ですから、診断書に傷あとの長さと位置が正確に書かれているか、写真がどの角度から撮られているかが、ここでは効いてきます。認定に疑問があるなら、まずご自身の傷あとの実測値と、診断書の記載を照らしてみてください。
なお傷あとは、等級と金額だけの問題ではありません。人前に出るのがつらくなった、接客の仕事を続けられなくなった。そうした変化は、会社への損害賠償を考えるうえで大切な事情になります。等級の判断とは別に、記録に残しておいてください。
働き方の制限にも、基準があります
神経系統・精神の障害と、内臓(胸腹部臓器)の障害は、どれだけ働けるかで等級が分かれます。
・9級7号の2・7号の3「服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
・7級3号・5号「軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
・5級1号の2・1号の3「特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
条文の文言はこのとおり抽象的ですが、こちらにも認定基準があります。
神経系統・精神では、高次脳機能障害について、意思疎通、問題解決、作業への持続力、社会行動という4つの能力を見ます。このうち1つ以上が相当程度失われていれば9級です。たとえば問題解決の能力なら、「1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまには助言を必要とする」状態が目安とされています。脊髄の症状では「一下肢の軽度の単麻痺」、日常生活は独歩だが不安定で転倒しやすく速度も遅い、といった状態です。
内臓では、臓器ごとに数値が定められています。心臓なら、おおむね6METsを超える強度の身体活動が制限されるもの。平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上る、といった動作が制限される状態です。呼吸機能なら動脈血酸素分圧が60Torrを超え70Torr以下、小腸なら残った空腸・回腸の長さが100センチメートル未満で消化吸収障害があるもの、といった具合です。
ただし、基準があることと、当てはめが自動で決まることは別です。例えば4つの能力がどれだけ失われているかは、診察の場で医師が把握した内容から判断されます。 痛みや疲れやすさ、集中力が続かないこと、人と話すことの負担は、ご本人が黙っていれば誰にも伝わりません。
診察のたびに伝えて、記録に残してもらってください。ご家族から見て変わった点があれば、それも材料になります。「以前は当たり前にできていたことが、いまはどうなっているか」を具体的に言えるようにしておくことです。
→ 労働災害における高次脳機能障害/労災で精神疾患になったら、弁護士にはいつ相談したらよい?
9級で労災保険から支払われる金額
9級は一時金の等級です。
障害補償一時金は、給付基礎日額の391日分です。給付基礎日額とは、事故の日の前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った金額をいいます。
障害特別支給金は50万円です。賃金の額に関係なく、等級だけで決まります。
障害特別一時金は、算定基礎日額の391日分です。算定基礎日額は、事故前1年間のボーナスなど特別給与の総額を365で割った金額から計算します。なお、この計算のもとになる特別給与の額には上限があります。給付基礎年額の20%にあたる額と150万円のうち、低いほうが上限です。
給付基礎日額が1万円の方であれば、障害補償一時金391万円に障害特別支給金50万円が加わって、およそ441万円になります。
会社への損害賠償まで含めて考える
労災保険で補われる範囲には、初めから枠があります。慰謝料にあたる項目はなく、減った収入も全額は埋まりません。会社の側に安全管理の問題があったのであれば、その部分は別に請求できます。
後遺障害慰謝料は、裁判で用いられる基準で9級は690万円が目安とされています。
逸失利益の計算では、事故前の収入に、労働能力の低下率と、その状態が続く年数に対応する係数を掛けます。9級の労働能力低下率は35%です。年数は、症状固定のときの年齢から67歳までを数えるのが原則です。40歳・年収400万円の方が67歳まで27年として計算すると、逸失利益はおよそ2,566万円になります。
慰謝料と合わせて賠償の総額はおよそ3,256万円。ここから、すでに受け取った障害補償一時金391万円が控除されます。障害特別支給金は控除されません。損害を埋めるための給付ではないためです。
会社から受け取るのはおよそ2,865万円、労災保険の441万円と合わせて手元にはおよそ3,306万円が残る計算になります。
なお、これは一つの前提を置いた計算例です。収入や年齢、会社の責任がどこまで認められるかによって、結果は変わります。
※なお、外貌醜状(顔の傷あと等)による9級の場合は、実際の減収や仕事への具体的な支障(接客・営業への影響など)が立証について、会社側から逸失利益の発生を争われるケースが多いため注意が必要です。
まとめ
労災の後遺障害9級について、要点を整理します。
9級は障害等級表のなかで項目数が最も多く、目や耳から内臓、生殖器まで幅広い障害が対象になります。労災保険からは給付基礎日額の391日分と障害特別支給金50万円が支払われ、給付基礎日額が1万円であればおよそ441万円です。
条文には「相当程度の」「相当な程度に」としか書かれていませんが、認定基準はもっと具体的です。 顔の傷あとなら長さ5センチメートル以上の線状痕、心臓なら6METsなど。認定に納得がいかないなら、ご自身がどの基準に当てはめられたのかを確かめるところから始めてください。
そして、基準への当てはめは、伝わっている情報をもとに行われます。何ができなくなったのかを診察で伝え、記録に残しておくことが結果を左右します。
労災保険だけでは、慰謝料も、減った収入も埋まりません。会社に落ち度があったのであれば、その部分は別に請求できます。
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